近江史を歩く

08.ホタル大名と松丸(宝幢院)




 近江今津にある宝幢院。京極高次を主人公にした水上勉「湖笛」の冒頭に出てくる場所である。この寺の奥にある野ざらしの墓の主が武田元明。若狭武田氏の当主武田元明は、本能寺の変後、羽柴秀吉に呼び出され、自害させられる。
 この元明の妻が絶世の美女と評判の高い竜子である。竜子は夫を殺害された上、その当の怨敵である秀吉の室となる。この辺は、淀殿の屈折した心境にも通じるものがある。しかし、秀吉の寵愛を受けた竜子は松丸と呼ばれ、醍醐の花見でその淀殿と張り合う。この場面はドラマや映画にも登場する有名な場面である。



 さてこの竜子の兄(弟という説も)が、京極高次。本能寺の変で、明智光秀についた高次は、没落した名門京極氏の再興もままならず、逃げ回ることになる。
 しかし、その後の高次はトントン拍子の出世を果たし、大津六万石の城主になってしまう。そんな高次に対し、しょせんは妹竜子や妻初(淀殿の妹、江の姉)の二人の女性によって大名にのし上がったのだという陰口が叩かれることになる。つまり、妹や妻の尻の光(閨閥)で出世した「ホタル大名」だという不名誉な名称を頂戴するのだ。
 京極竜子は、秀吉の死後、剃髪し高次のもとに身を寄せることになる。大坂の陣の後には、六条河原で処刑された秀頼の子国松の遺体を引き取り、埋葬をしたりもしている。京都東山、秀吉を祀る豊国廟に竜子の墓所がある。



ページ先頭へ 前へ 次へ ページ末尾へ