近江史を歩く

09.新羅の王子天日槍(安羅神社)




 草津市穴村。穴村は古来より「灸治の里」として知られていた。1920年代には、代々伝わる墨灸が「穴村のもんもん」として評判を呼び、鉄道や汽船を利用して多くの患者が集まった。今の「あなむら診療所」である。実は、このルーツは意外なところにある。



 草津市穴村にある安羅神社。その由緒書を読むと、日本医術の祖神とある。祭神は天日槍(アメノヒボコ)。「古事記」には渡来した新羅の王子とされ、近江の国「吾名村」で陶器を作る窯を築いて土器を焼く技術を伝え、従者の何人かを鏡村に残し、但馬の国出石に居所を定めたとされている。
 「吾名村」の場所については諸説あるが、その有力な一つが草津市穴村である。ヒボコの従者がこの地にとどまり特殊技能を伝えたとされる。医術・陶器・土木・鉄工業をもたらしたとされるが、おそらく何らかの渡来集団の存在がその背景にあるのだろう。地元の人が安羅さんと呼んでいる、その神殿には社宝として、黒色の小石が眠っている。原始医術として、石を火にあぶり、温め患部に当てて、治療したのだと推定されている。「穴村のもんもん」のルーツである。


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